父親からの巣立ち

ココロの架け橋 中野敏治

涙を流しながら話す彼の一生懸命な姿を見て、母親が何かを決断した感じがしました。
そして、少しの沈黙の後、彼に声をかけたのです。
「A高校を受験しなさい。お母さんからもお父さんに話すよ。お金のことは気にしないでいいよ。お母さんも働くから。だから、あんたも頑張って。あんたはA高校を受験しなさい」と、母親は泣きながら我が子の肩を抱きしめたのです。
「今まで家族のことを考え、幼い弟のことを考え、自分のことを一番後回しにして考えてきたんだろう。いいんだよ。我がままを言って。もういいんだよ。思いっきり我がままを言って」と彼に声をかけるのが私には精一杯でした。

母親は彼の手を握り、「一緒に頑張るから」と彼に声をかけました。
彼はポタポタと涙を落としながら大きくうなずきました。
彼の進路決定は受験校を決めるだけではなかったのです。
父親からの巣立ちでももあったのです。
彼は希望していたA高校に合格しました。
そして、入学式当日、彼は新入生代表として挨拶をしました。
彼の入学式、そこには母親と一緒に父親の姿もあったそうです。