父の背中

親のこころより 60歳男性の投稿

我が家はとても貧しかった。
藁ぶき屋根が修理できず、雨の日はバケツだけでは足りなくて、タライや鍋など総動員して雨漏りの滴の下に置いた。
家のあちこちで奏でるバケツ類の音が、さながらオーケストラのようであった。

それでも親父は愚痴や弱音を吐かず、よく働いた。
太陽の登る前から夜遅くまで身を粉にして。
私が、学用品が必要だと言えば、嫌な顔をせずに出費してくれた。
そして、大学まで出してくれた。

すすけた裸電球の下で夜なべをする、疲れ果てた親父の顔が私の脳裏から離れたことはない。
穴のあいた靴下、つぎはぎだらけのズボン。
言葉はいらなかった。
私は親父の背中を見て育った。
そんな亡父のことを思い出すたびに、ただただ目頭が熱くなる。