治療や死をどう乗り越えるのか

 

1,000人以上を看取った緩和医の話し

基本的に「根治しない」病気であると診断された場合には、どのように考えていったらよいのでしょう。
この場合の治療の目的は「生活の質を確保した延命」です。
つまり、いい時間をできるだけ長くというのが目的であり、病気を治すというのは目的になりません。
例えば、抗がん剤で生活の質が削がれてしまうのならば、治療のメリットは少なくなります。

副作用がなく、延命できるのでしたら、それは治療を行ったほうがいいでしょう。
しかし延命はできても、やたらに副作用が強く、生活していくのが困難であるとしたならば、判断は難しくなります。
その治療で数か月延命できるとして、その間副作用で苦しみ続けるのと、命は伸びないが副作用もなく生活するのと、どちらがいいのかという話になります。

どれだけ辛い治療を受けても根治することがなく、せっかく延命できても、その間ずっと副作用で苦しみ続けて何もやりたいことができず、家族に当たったりするような最期を迎えるとしたら、本末転倒なのです。
私の患者さんは進行がんで、延命効果があるだろうと思われる抗がん剤を断りました。
なぜか?
その治療は全身の皮がむけるという副作用を起こす可能性があったからです。
彼は、人前で講演をする仕事に就いていましたので、皮がむければ仕事にも影響すると考え、延命よりも生活の質を選んだのです。