求めない

加島祥造氏 「求めない」から

「求めない」ということは、何もしないことではないよ。
「求めない」ことで、かえって自分の内なる力を汲み出すんだ。
自分の中の眠っている力を呼び覚ますんだ。

私の中に求める自分と求めない自分がいる。
求めない自分は、自我を見ている別の自分だ。
自我のない自分は下にいて、上にいる自分に囁く・・「求めるな」とね。
でもその声は、上にいる自分には、なかなか聞き取れないんだ。

「求めない」、すると恐怖が薄らぐ、恐怖から自由になる。
なぜなら恐怖は多くの場合、求めることからくるからだ。
求めて求めたものが来なかったらどうしよう、大変だ、それが恐怖なのだ。

「求めない」、すると人の後からゆっくり行くようになるよ。
その方がみんなの後ろ姿がよく見えるからだ。
人々は前のめりになって走っていく。
息せき切って歩いていく。休んだと思うとすぐ立ち上がる。そして休む前よりももっと早足になる。
求めなければ、そんな真似はしなくなる。

「求めない」、すると人に頼らなくなる。
これが求めないことの一番すごいところかもしれない。
今あるもので十分だ、と知る人だけが生きることの豊かさを知るのだ。
その豊かさは命の喜びだ。
「求めない」でいられるとき、人は一番自由なのだ。

ところで、求めないでいられるのは、もう自分がある程度のものを持っているからだ。
何も持たない人に、求めるなというのは無理かもしれない。
衣食住が足りていて、それから自分が礼儀や気取りを捨てたとき「自由が来る」のだ。