死ぬときに幸福な人より

末期の乳がんで余命僅かと診断された、ある40代の女性の患者さんは、最初のうち死を非常に恐れていました。
彼女には小学生の娘さんが2人いて、幼い子供たちを残してこの世を去ることが心配で仕方がないと、しきりに言うのです。
そこで私はある時、彼女にいくつかの質問をしてみました。

「あなたの亡くなったお母様は、あなたにとってどのような存在でしたか?」
彼女は「いつも私のことを一番に考えてくれる大好きな母でした。今でも、近くで私のことを見守ってくれるような気がしてなりません・・」と言います。
私はこう言いました。
「お母様は、今のあなたに何と声をかけてくれるでしょうね?」
すると彼女はこう言いました。
「いつまでも、くよくよしていて下ばかり向いているの!と、怒られるかもしれません・・」

そこで私は言いました。
「あなたも娘さんたちにとって、お母様と同じような存在になれるのではないでしょうか。いつでも娘さんたちのそばにいて、やさしい言葉をかけたり、時には叱ったりできるのではないですか・・」

このやり取りを経て、彼女の表情は少しずつ穏やかになっていきました。