死ぬより嫌な入院

日本人の死に時より 医師の書

在宅医療で診ている85歳の男性は、妻と息子に先立たれて一人暮らしをしています。
近所に娘一家が住んでいて、時々様子を見に来てくれます。
毎日、朝からコップ酒を飲み、テレビの時代劇が楽しみという自由気ままな生活ぶりです。

この男性の悩みは、心臓が悪いことです。
それでも病院が嫌だといいます。
先日、診察に行ったら三日続けて発作が起きたといいます。
私が心配で「発作が起きたら、救急車を呼んでくださいよ」というと、男性が悲鳴とも叫びともつかない声をあげました。
「先生、あんまり年寄りをいじめんといてくれや!!」

救急車を呼べば、当然「死ぬより嫌な入院」になるのです。
「もう、85にもなって、生き過ぎやと思うてる。もう人生の役目も楽しみも終わった。いつ死んでもええんよ。こんな苦しみや不安で年寄りをいじめんといてほしいのや・・」

「それ、誰に言うてはるんですか?」
私が、多少の覚悟をしつつ、聞いてみました。
「神さんや。もう十分長生きさせてもろたから、お前もう終わりって言うて、コロッと逝かせてほしいんや。神さん、こんなん殺生でっせと言うてるんや・・!」