死があるから生がある

いのちの言葉 JT生命誌研究館館長 中村佳子

38億年前に生まれた私たちの祖先は、おそらく、たった1つの細胞でできている生き物でした。
それは分裂を繰り返して増えていきます。
でも人間を含めて、私たちが普段目にするような生き物は、そんな増え方はしません。
私たちの場合は、女性なら卵を、男性なら精子を残します。
そして自分は死んでいき、子どもは生きていきます。
分裂を繰り返していただけでは、同じものしか生まれません。
けれども、卵と精子が合体すれば、2つの違うものが一緒になるので、違う性質が交じり合った新しい子どもが生まれるわけです。
こうして、新しいものがどんどん生まれ、多様化していきます。

お母さんのお腹の中で、赤ちゃんの手ができてきます。
最初は拳のようなものができます。
その拳の間の細胞が死んでいくと、そこが分かれて指ができていくのです。
つまり赤ちゃんが生まれる前、お母さんのお腹の中で、すでに身体をつくる細胞が死んでいくのです。
死があるから、赤ちゃんが生まれるのです。

生きているということには、死が組み合わさっているんだなと思わされます。