欲=恥ずべきこと

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

宮田家では、父親が一切家に生活費を入れません。
母親の窮状を見かねて、兄弟5人で「家にお金を入れろ!」と父親に抗議したことがありました。
お父さんは、それなりの事務所を構え、忙しく仕事をしていました。
多くの資格を持ってましたから、その気になれば多くの収入を得ることができたのです。
しかし、それを決してやろうとはしませんでした。
世のため人のために一生懸命に働く父、家族を食べさせるために身を粉にして働く母。
その父も家に帰れば、母が稼いだお金で子どもが用意したものを食べる。
それなのに一銭も家にお金を入れない。
これが矛盾しているように思えて、どうにも納得できなかったのです。
しかし結果は、見事な返り討ちにあいました。
父親はこう説教を始めたのです。
「うちには家もある。着るものもある。ボロだろうがなんだろうがある。食べ物だって、お前らが自分で用意しているじゃないか。あと、何がいるんだ。まさか、新しい自転車が欲しいとか、ゲームが欲しいと思っているんじゃないのか。それは、お前たちの欲じゃないのか。そんな欲張りな人間になったのか」

まったく世俗的な欲のない父親に育てられた子どもたちは、「欲」という言葉に敏感で、「欲=恥ずべきこと」という観念がこびりついていたのです。
結局、欲という言葉を持ち出されたことで、宮武の5人兄弟は、全員、自分たちが悪いことを言っているような気がして、何も反論できなかったのでした。