映画「生きる」

市役所の課長である彼は、あと一カ月で30年間無欠勤の記録を作るはずだった。
しかし、胃の痛みに耐えきれず、仕事を休んで病院に行った。
医者は「胃潰瘍です」と嘘をついたが、彼は末期の胃ガンであることを知ってしまった。余命3~4カ月。

こんな時、まず頼りとするのは家族である。
彼は早くに妻と死に別れ、男で一つで男子を育ててきた。
その息子も、今や結婚し彼と同居している。

日が暮れても息子は帰ってこなかった。
夫婦でどこかに遊びに行っているらしい。
やがて息子夫婦は、楽しそうに語らいながら帰宅した。
しかし、家には明かりがついていない。
「お父さん、留守なのかしら。う~寒い。家の中も外も同じ寒さだわ。だから日本の家っていやね~」
「表で楽しんできても家に帰ってくると幻滅だな。もっと近代尾的な家が欲しいな」
「ねえ、私たちが住む家なら1,500~2,000万円もあれば建つのでしょう。お父さんの退職金を担保にして、何とかならないかしら」
「おやじの退職金、2,000万円以上にはなるね。あと年金が月に20万円ってとこかな。それに貯金も1、000万円ぐらいあるハズだよ」
「でも、お父さん、うんって言うかしら」
「うんって言わなければ、別々に暮らそうって切り出すんだね。それが親父には一番効くよ。第一、親父だって退職金や貯金を墓の中まで持っていく気はしないだろう」
「フフフ・・・」

二人は笑いあって部屋の電灯をつけた。
すると、誰もいないはずの暗闇に、父親がうずくまっているではないか。