早期発見の不幸

やはり死ぬのはがんでよかった 医師 中村仁一

最近の日本人は、死ぬことを前提に生きていません。
ゆえに治らないガンは受け入れがたく、難民化しやすいのです。
つまり、もう打つ手がないと言われたときに、まだ何とかしてくれる医者がどこかにいるのではないかと右往左往するというわけです。

早期がんと診断されて取り切った場合でも、その後は一定期間ごとに苦痛を伴う検査を繰り返さなければなりません。
また生きている間は、ずっと再発におびえ続けなければなりません。
この心理的なストレスは、相当なものと思われます。
しかも、検査の賞味期限は当日限りです。
生きている間は、こんなことがずっと続くわけですから、これを「早期発見の不幸」といいます。

一方、ガン検診や人間ドックに近寄らなかった場合はどうでしょう。
症状のないまま、普通の生活をしていたら食が細り、やせてきて顔色も悪いので検査を受けたら手遅れのガンだった。
一見手遅れの発見は不幸の極みのように映ります。
しかし、考えてみてください。
それまで何の屈託もなく、自由に充実した毎日を送れてきたのです。

長生きも結構ですが、ただ長生きをすればいいというものでもないでしょう。
どういう状態で、生きるかが重要だと思うのです。