捨て猫

ココロの架け橋 中野敏治

ある日の朝、朝の会へ向かおうと渡り廊下を歩いている私の後ろから、クラスの男子生徒が小走りで私を追い越して生きました。
その生徒は制服のおなかのところに何かを入れているように、前かがみで走っていきました。
「おはよう」という私の声にも気づかないほどのあわてようでした。

教室へ入ると、どこからか子猫の泣き声がするのです。
教室を見渡す私と目が合ったのは先ほどの男子生徒でした。
突然その生徒は立ち上がり、「先生、学校へ来る途中の道端でこんなに痩せている子猫が箱に入れられ、捨てられていたんだ。過ぎ去ろうと思ったけど、この猫が俺の方を見て泣いているから学校へ連れてきちゃった。さっきは、何かを食べさせようと探しに行っていたんだ」というのです。
必死の思いでいる彼の顔を見てしまうと「勉強に関係ないから、元の場所に戻してきなさい」とは言えませんでした。
彼にどんな言葉を返してよいか少し迷っていました。
子猫の弱弱しい小さな声が聞こえたとき、私の思いは決まりました。
「子猫は可哀そうだけど、授業中は教室の後ろで授業の終わるのを待ってもらおう。休み時間は、みんなで大切に抱いてあげようね」とクラスの生徒に話しました。
生徒の顔がニコニコしていくのが分かりました。