手術の前に

ココロの架け橋 中野敏治

なかなか外さないサングラスが気になって「そのサングラスは?」と父親に尋ねると「先生、恥ずかしんですが、俺、息子の病名が信じられずに毎日涙が止まらず、目が腫れてしまい、それでも涙が止まらないんです。腫れた目を隠すためにサングラスをしているんです。息子の方がもっと苦しいのに情けないです。息子、冷静に医者の話しを聞いていたんですよ。そして、サッカーは又できるんですかと医者に聞いているんですよ。生きてほしいんですよ、息子には」と言いながら、父親はうつむき涙を流すのです。

「手術するよ。でも、その前に一回、学校へ行きたい」と、彼は父親に頼みました。
そして、彼は手術の数日前に学校へ両親と一緒に登校しました。
彼は自分の病気のことをみんなに伝えたかったのです。
体育館に彼と同じ学年の生徒が集まりました。
学年の生徒の前に立って、彼は自分の病気のことを話し始めたのです。
そして、これから手術のために、また違う病院に入院することも、しばらくはみんなと連絡もできないということも。
体育館はシーンとしました。
そして、涙を流す生徒もいました。

そんなみんなに、彼はこう言いました。
「大丈夫だから。元気になるために手術するんだから。みんな待っていて」
学年のみんなに思いを伝えた後、彼は家に戻るため、学校の玄関に両親と向かいました。
彼は学校の玄関を出るとき、立ち止まり、そして振り向いて、見送りに来た先生方に言うのです。
「先生、行ってくるね。また帰って来るから」
泣いてはいけない、泣いてはいけないと思いながらも、彼の言葉に先生方も涙が溢れていました。
本当は、一番不安で辛いのは彼なのです。
でも、彼は自分以上にみんなのに、特に、サングラスをずっとかけっぱなしの父親を気づかったのです。