手を尽くすこととは苦しめること

やはり死ぬのはがんでよかった 医師 中村仁一

私たちは、枯れかけている植物に肥料をやるでしょうか。
万一肥料を与えたとしても、吸収しませんから植物に害はありません。
ところが人間の場合は違います。
体内に肥料を無理やり突っ込むわけです。
食べられなければ鼻からチューブを入れたり、脱水なら点滴注射で水分補給を、貧血があれば輸血を、小便が出なければ利尿剤を使います。
これらは、せっかく自然が用意してくれている、ぼんやりとして不安も恐怖も寂しさも感じない、幸せムードの中で死んでいける過程をぶち壊しているのです。

できるだけ手を尽くすというのは、「できるだけ苦しめ」てと、ほぼ同義語になっているといっても過言ではありません。
よく点滴のおかげで1カ月生かしてもらえたという話しを耳にします。
しかし点滴の中身は、ブドウ糖が少し入ったスポーツドリンクより薄いミネラルウォーターです。
水だけ与えるから、後の分は自分の体を溶かしながら生きているのです。