我慢しなければよかった・・・

70歳からの選択 和田秀樹

糖尿病や高血圧をわずらい、長い間、大好きな甘いものやしょっぱいものを我慢してきたが、最期の時までおいしいものを食べられないなら、もう少し死期が早まってもいいから、食べたいものを食べておけばよかった、というような患者さんの声を意外に遺族の方からうかがいます。
「長い間、我慢させて悪かった」と、遺族の方も後悔されていることが珍しくありません。
それどころか、脳卒中や心筋梗塞の予防のため、血圧や血糖値のコントロールに血道をあげていたのに、ガンでなくなる人もたくさんいます。

予防のためによかれと思って、自分のやりたいこと、買いたいものを我慢して財産を残したら、骨肉の争いになったということもありますし、親切にしてくれるので出戻った娘と同居していたら、知らないうちに財産の名義を書き換えられて、書き換えが終わったら出ていったというようなカースもありました。

高齢者ともなると、多くの人が「自分の人生も終わりに向かっているな」と意識し始めるようになります。
それがいつやってくるかが分からないため、様々な不安にとらわれてしまうのです。

私は人生の最期を迎え、そしてお亡くなりになった高齢者とも数多く接してきました。
その中には「ああ、いい人生だった」「悔いはない人生だった」と口にされる方もいましたが、そういうケースはどちらかと言えば少数です。
むしろ、「もっと、こういうことがしたかった」「こうしておけばよかった」という思いを抱いてお亡くなりになるケースの方がずっと多いようです。