憧れ

日本人の死に時より 医師の書

86歳の女性は、とても立派な女性で、診察の時に時間があるとよくおしゃべりをしました。
肺気腫があり、動くとすぐに息切れがしました。
他にも膝が外側に曲がっていて、歩行がスムーズにできず、腰痛もありました。
それでも「満足力」が強いので、この歳で子の身体ならありがたいと思っていますと、納得していました。

「感謝力」も強く、同居の息子家族にいつも最大限の感謝を表明していました。
「私はいい家族に恵まれて、ほんとうにありがたいと思っています。ただ1つだけ、望むことがあるのです。苦しまんと、楽に死なせてほしんです。このごろ、身体が弱っていくのが自分でもはっきり分かるし、いつ寝たきりになるかと心配なんです。これまで、嫁さんによくしてもらっているのに、この上寝たきりになって、もっと迷惑をかけるかと思うとつらいんです」

私が、「ぽっくりいける薬があったら飲みますか?」というと、「飲むわー」と叫ぶように言ったのには驚きました。
「怖くないんですか?」と聞くと「全然、先生、そんな薬、ほんとうにないんですかぁ?」といいます。

それ位老人にとって、死ぬということが現実味のある問題になっています。
うまく死ぬことへの、憧れみたいなものがあるのです。