想いのリレー 3

目の前にひかり号がゆっくりと滑り込んできた。
なぜ、こう何もかもうまくいかないのか。
全身から力が抜けた。
するとその時、階段を乱暴に駆け上がってくる音がした。
「お客さん! 忘れ物!」
顔を上げると、さっきのタクシー運転手がいた。
制服のシャツはびしょびしょ。
髪は額にべったりと張り付いたまま息を切らしている。
にもかかわらず、差し出されたプレゼントの箱はほとんどと言っていいほど濡れていなかった。
私はとっさに「申し訳ありません」も言えず、口から出た言葉は「大丈夫ですか!」だった。
「大丈夫なものですか・・」
ぜいぜい言いながらも、初老の紳士はさわやかに笑っている。
「うちの息子はね、大げんかしてもう何年も連絡が取れないんです。息子さんはねえ、悲しませちゃいけませんよ!」
何も言うことができなかった。
運転手さんは寂しそうに目を細める。
「あっ、出ますね。早く乗ってください」
発車のベルが鳴ると、背中を突かれるようにして新幹線に押し込まれ、すぐにドアが閉まった。

「待って!」まだお礼を言っていない。
運転手さんはやさしく笑い、こちらに向かって深々と頭を下げた。
「ありがとうございます!」
私はガラス窓に額をつけ、自分で出せる限りの大声を出した。
何人かがこちらを見たが、そんなことは気にならない。
「本当にありがとうございます!」
新幹線は動き出して、運転手さんはあっという間に見えなくなった。