想いのリレー 1

今日は息子の9歳の誕生日。
私は新大阪に向かうタクシーの後部座席に座っていた。
誕生日はUSJに連れていってやる、という約束は、急きょ入った出張によりフイになった。
脇に置いたプレゼント包装された箱、中にはバスケットシューズが入っている。
息子はこれで許してくれるだろうか・・・・。
それよりまず、9時半のひかり号最終電車に間に合わなければならない。
会社から宿泊代が出ることにはなっているが、今日帰ってプレゼントを渡すことが重要なのだ。

タクシーの運転手は熟練者らしい初老の男性だった。
「なるべく急ぎで」という私のお願いに「分かりました」と低い声で応じ、それから一度も口を開くこともなく運転に集中している。
運転はとても穏やかでありながら、かといって遅いわけでもない。
タクシーは水滴が壁を伝うように、するすると夜の新御堂筋を通り抜けていった。
雨の音とワイパーの動く音だけが響く車内。
フロントガラスの助手席側には運転手の証明書が提示してあり、生真面目そうな顔がこちらを見据えている。

「プレゼントですか?」不意に運転手が話しかけてきた。
「えっ?」私は少し面喰いながらも「・・・そうなんですよ。息子が今日誕生日でしてね。でも急な出張でまいりました。家で寝ているかもしれない。それでも何とか9時半のひかりに間に合わせてほしくて」と答えた。
ルームミラーの運転手は微笑む。
「そうでしたか。それなら、なおさら急がなければいけませんなあ。息子さんを悲しませちゃいけない。9時半のひかりですね?」
関西弁の混じった穏やかな物言い。
それとは裏腹に車のスピードがグッと上がった。
しばらくすると「お客さん、渋滞ですねえ」という弱弱しい言葉が返ってきた。
スムーズに流れていた道も新大阪駅の一つ手前、東三国駅が見えたあたりから混雑しはじめ、気づけばタクシーは完全に停車している。