思いやり 3

投稿より

僕は昔、おばあちゃんに回転すしに連れて行ってもらった時、エビばかりを食べていたそうです。
そのことを覚えていたおばあちゃんは、僕の誕生日にはいつも出前の寿司を取ってくれました。
でも高校生になる頃には、家で誕生日を祝うという機会はなくなり、おばあちゃんの家にも行かなくなりました。

そんなある年の誕生日、予定もなく家にいたら、突然おばあちゃんが大きな風呂敷を抱えてやって来ました。
「今日はさとしの誕生日やろ。おばあちゃん酢飯を拵えてきたから、大好きなエビのお寿司をいっぱい握ってやるからな」といいます。
僕の正直な気持ちは、「ちょっと困った」でした。
最近では自分の誕生日を大ごとにされるのが、恥ずかしいという気持ちの方が大きかったからです。
それでも、おばあちゃんはエビのお寿司を握り始めました。
酢飯がべちょべちょだったのと、強く握り過ぎたお寿司は正直、あまりおいしくありませんでした。
お寿司を残してしまった僕に向かっておばあちゃんは「失敗してごめんね。来年はもっとうまく作るからねえ」と両手を合わせて、さみしそうに笑っていました。

年が明けた1月、おばあちゃんは震災で亡くなってしまいました。
普段は冷静な僕でしたが、冷たくなったおばあちゃんの横で、大泣きをしました。
実をいうと、おばあちゃんは祖父の義理の姉に当たる人なので、僕とは直接血のつながりはありません。
それでもいつでも僕に一番優しくしてくれて、僕がエビが大好きなことをずっとずっと覚えていてくれていたおばあちゃんです。
僕の誕生日にお寿司を握ってくれたとき、「おいしいね!おばあちゃん」と一言、どうして言ってあげられなかったのだろうということがずっと心に残っています。

でも、おばあちゃんが握ってくれた、ちょっと酸っぱくて、おばあちゃんの温もりで温かくなったお寿司の味は、絶対一生忘れないと思います。