心理療法

いつでも死ねる 帯津良一

がん治療の現場では、よく「5年生存率  %」という言い方をします。
当たり前のように使われていますが、これも患者さんを惑わせ、悩ませる言葉です。
例えば5年生存率が1割だと言われたら、どういう気がするでしょうか。
こんなに生存率が低いなら、自分は5年も生きられないと悲観するのが普通です。
そういう思いは、体や心にも影響を与えて、生命力を低下させてしまいます。

私は1976年に東大の第3外科から駒込病院に移りましたが、その頃は、心のことなど考えても見ませんでした。いい手術をすれば、ガンは克服できるものだと信じ切っていました。
その後、倉敷の伊丹仁朗先生が、ガン患者さん7人と一緒にモンブランに登頂したことが、大きな話題になったことがありました。
「生きがい療法」という心理療法の一環として山に登ったのです。
それが1987年、このあたりから、ガン治療には心という側面からもアプローチする必要があるということが、徐々に知られていったように思います。

私の場合は、1982年に川越に病院を設立し、中国医学を取り入れたことから、患者さんの顔色や生活習慣をしっかりと診るようになりました。
そこから、何となく心の有様が見えてきて、心の領域にも足を踏み入れないといけないと、心理療法を治療に取り入れるようになりました。
今では、ガンになってしまうのも、治療をするのも、心が非常に大きなウエイトを占めていると確信しています。