小欲知足

いい言葉がいい人生をつくる 斎藤茂太

仏教に「小欲知足」という言葉がある。
欲望を小さくすれば、容易に満足できるという教えだ。
戦後の日本は右肩上がりに成長してきた。
常により高く、より大きく、より豊かにと、望みの器を大きくしてきた。
それはそれで、日本をここまで豊かな国にする起爆力なり、推進力となってきたと思う。
だが、その反動もある。

海外を旅し、可能な限りいろいろな国を見てほしいと願っている。
戦乱や貧困が極まり、飢餓にさらされている国は例外だが、普通はほとんど物のない暮らしでも、家族の愛情と子どもたちの澄んだ瞳、みんなの屈託のない笑顔に出会えるはずだ。
それは、はっとさせられるくらい美しい。
人が幸せに生きていくためには、それほどたくさんのモノは必要ないのだと教えてくれるようである。

人には欲がある。
欲は人を前進させる大きな力になる。
その代わりに、人を呪縛し、人を狂わすこともある。
だからこそ釈迦は、欲望をギリギリまでそぎ落とすために、何年にもわたる苦行を重ねたのだろう。