安定?

上京物語 喜多川泰

安定だと思って頼って生きているものは、実はほとんどの場合、皆もそうだからという以外、何の根拠もなく、実際にはとても脆いものです。
安定していると思って選んだ会社が、ある日突然、無くなってしまうことだってあります。
実に多くの人が、ものすごく不安定なものの上に乗っていながら、まるで安定した人生を過ごしているかのように錯覚し、その錯覚が続くことを前提に将来を設計しています。

誰でも初めから、そんなに会社をあてにしていたわけではありません。
若いうちはむしろ、会社を自分のために利用してやるくらいに思っています。
ところが、大きな買い物をしたり、ローンを組んだりすることによって、どんどん会社をあてにする期間が長くなっていきます。
余程まずい状況でなければ、半年後に会社があるかどうか心配する人はいません。
だからこそ、半年先まで給料がもらえることが決まったかのように錯覚します。
そして、それをあてにしてモノを買います。
そうやっていくうちに、それが当たり前になり、半年が1年になり、5年になるような買い物をし始めます。

ところが、30年ともなると、誰だって自信が無くなります。
今を時めく企業で働く人だって、向こう30年間、その会社があるかどうかと聞かれて、自信を持って答えられる人なんていません。