子供を30年間探し続けた 3

母は、ようやく東大寺の大門に着くと、あまりにも広大な寺院に圧倒されてしまった。
「公家が参拝するような、こんな寺の大僧正様が、自分の子供であるはずがない」一旦明らめようとしたが、どうしても思いきれない。
たまたま通りかかった僧に「良弁大僧正様にお会いしたいのですが・・・」と願い出た。
「私たちでさえ、めったにお側へ近づくことができない偉い方です。失礼だが、そなたの身分では到底かなうまい」と、すげない返事。
しかし、我が子を捜し求めていることを涙ながらに訴えると「良弁様は毎日、杉の大木の前を通られます。今、そなたが語ったことを紙に書き、木に貼っておけば、必ずや読んでいただけるだろう」と教えてくれた。

緋の衣を着た良弁が、輿に乗って杉の木に近づいてきた。
多くの供人を連れている。
老母は、遠くで平伏し見守っていた。
良弁は木の前で輿から降りて「人間としてこの世に生まれ、仏法を聞けるようになったのは、まさに父母のおかげです。大恩ある両親は、今どこにましますのでしょうか。一度でいいからお会いしたい・・・」と念じていた。
そのうちに木に貼ってある紙に気がついた。
一読して良弁は「これを書いた人を探してくぬか!!」と供の者に命じた。