子を手放す親心

がばいばあちゃんの口癖 島田洋七

私が佐賀に連れていかれたのは、小学校2年生のときでした。
佐賀からおばあちゃんが遊びに来ていて、「おばあちゃんが帰るから見送りに行こう」という話しになったのです。
汽車がホームに入ってきたら、おばあちゃんは乗り込みました。
「おばあちゃんは、また来てね」
「また近々来るからね」
ところが、これが全部芝居だったんです。
さて、ベルが鳴ってドアが閉まるとき、私はかあちゃんに背中を押され、汽車の中に倒れ込みました。
そして、立ち上がろうとしたら起き上がれないんです。
おばあちゃんがリュックを後ろから押さえていたんです。
「うー、おばあちゃん重い」って言っている間に、汽車のドアが閉まりました。
すると、かあちゃんは泣き出したのです。

かあちゃんが私を汽車に押し込んだのは、どうやら家庭の事情があったようです。
父親は亡くなっており、かあちゃんと兄ちゃんと私の3人暮らし。
かあちゃんは居酒屋で働いていたんですが、まだ小さかった私が寂しがって居酒屋に行くのは、戦後間もない広島では危ないことでした。
だから、環境が悪いからと、佐賀のばあちゃんのところに預けられことになったようなのです。
しかし、正直にそのことを教えてもらえず、こんなふうに半ばだまされたような形で佐賀に連れていかれたのでした。

「俺、かあちゃんに嫌われてるんかな。だから、こんなところに連れてこられたんかな」と子供心に思って、ばあちゃんに話したことがありました。
「おまえより、佐賀に預けるかあちゃん、親元から離すかあちゃんの方がどれだけつらいか、わかってんのか・・・」

今思えば、子どもをどこかに連れていかせるために、背中を押す勇気はすごかったと思います。
だから、かあちゃんもワーンと泣かずにはいられなかったんでしょう。