好きなことが一番

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

ひたむきで素直、こうと決めたことは一生懸命に頑張る。
これが肥川家の普通です。
そんな肥川家の中でも、一番がんばり屋なのは、千代乃さんの妹、つまりケンちゃんやケイちゃんの叔母に当たるマリちゃんかもしれません。
マリちゃんは、生まれつきの小児麻痺で体が思うように動かず、言葉も不自由です。
その マリちゃんが、なんと肥川家とご近所の仲間たちの食事を一手に引き受けていると知った時は、ほんとうに驚きました。

もちろん機敏な動きはできないので、何も知らない人から見れば、調味料一つ振るにも不器用で心もとありません。
正直、僕も最初は「大丈夫なんかなあ」と思ったものです。
しかし不思議なことに、マリちゃんが丹精込めてつくりあげる料理のどれもが、まがりなりにも飲食店を営む僕からしても、とてもおいしいのです。

体の不自由な人に、どうしてわざわざ料理などさせるのかと思う人もいるでしょう。
でも、マリちゃんに関しては、僕はそうは思いません。
何よりも、そうしている本人がとても楽しそうだからです。
人は誰しも、1つには自分が役立っているという実感、いうなれば生き甲斐があってこそ輝けるものだからです。

子どものころからマリちゃんは、特別扱いをせずに育てられてきました。
養護学級をすすめられても、家族が毎日送り迎えして、絶対に学校にご迷惑はかけませんから特別扱いにしないでくださいとお願いし、普通のクラスで過ごしました。
マリちゃんは、言葉は不自由ですが、僕がいつもの調子でおかしなことを話すと、涙を流して笑います。
表情が豊かで、その意味ではとても多弁なのです。