大切な人に手紙を書くと死が怖くなくなる

今日が人生最後の日だと思って生きなさい 小澤竹俊

人生の中で最も思い出深い出来事や、大切な人に伝えておきたいことなど、9つの質問を使って、患者さんにご自分の人生を振り返っていただく試みをしています。
そして、質問の答えをもとにしながら、スタッフが大切な人への手紙を患者さんと共に完成させます。
これを「ディグニティセラピー」といいます。

ディグニティセラピーには、2つの大きな目的があります。
まず1つは、患者さんが、自分自身やご自分の人生について考えるきっかけをつくることにあります。
質問に答えるためには、さまざまな記憶を掘り起こさなければなりませんし、自分1人で考えていてはまとまらない思考も、人に話すことで次第に輪郭がはっきりとしてきます。
その過程で、ご自分が生きてきた意味に気づき、人生を肯定できるようになる力が少なくないのです。

病気であることが分かってから、ずっと死にたいと言い続けてきた患者さんの表情がディグニティセラピーを受けた直後から穏やかになり、「あの時死ななくてよかった」とまで言ってくださったというケースもあります。

ディグニティセラピーのもう1つの目的は、会話を手紙という形にして、より自分の思いに近い内容となるよう修正を重ねるうちに、人生の意味、大切な人への思いがより明確にしていくことです。
そしてこの手紙を、残された方々の心の支えにしていただくことです。
大切な人が、自分の人生をどう捉え、自分に何を伝えたかったのか。
それが明確に伝われば、残された方も
「故人はほんとうに幸せだったのだろうか」
「悔いや心残りはないだろうか」
と、あれこれ悩み、苦しむことが少なくなります。