売らんかなの論理

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

岳南さんは、屋久島で生まれ育ちましたが、中学を卒業後、島を出て働きました。
若者は金の卵と呼ばれて、大挙して集団就職のために都会へ出ていった時代です。
靴下製造の会社で10数年、真っ正直に仕事に打ち込み、デザインや工程に独自の工夫を凝らして経営者に認められながらも、結局は「売らんかな」の論理が支配する社会になじめませんでした。

例えば、屋久島特産のポンカンは、1月に完熟した実を食べるのが一番おいしいのです。
しかし、商売上の理由から、そのおいしい時期ではなく、一番需要のある正月前に集中して出荷されていきます。
それはポンカンのためでもなく、おいしく食べたい人のためでもなく、ただ儲かるからという取引です。

自分はこの業界で認められ、やりがいも責任もある。
成功していると言われることもある。
だが、俺のやっている仕事も、ポンカンをおいしくないときに売るのと、似たようなものじゃないか。
ある日、そう思った瞬間、岳南さんは屋久島に帰ろうと決めました。