善き行いが人生を充足させる

緩和医の話しから

終末医療の現場にいると、頑張りの限界を知ります。
世の中には頑張りでは乗り切れないものがあるからです。
それは「死」であり、「別れ」です。

緩和医療では、「すること」も大事にしますが「しないこと」も重視します。
命を伸ばそうとする必要以上の治療の所為で、患者さんが苦しんでいることが少なくないからです。
終末期は、かなり少ない水分と栄養量で生命を維持できます。
そこに通常人と同じ量の水分、栄養分の点滴をすると、患者さんは溺れているのと同様の苦しみを味わうことになるのです。
余計な治療を取り去ることで、死を前にした苦痛は大きく変わってきます。

死に逝く人たちは、自らの人生の誇れるものを探します。
そして、自分がなした善き行いを見つけると、救われるのです。
人は誰でも、自らの人生を意味あるものであって欲しいと願っています。
それを最後に充足できるのは、誰かの支えになれたことで、喜ばれたという想い出です。

自分がもっとも大変だった時のことを思い出してください。
今こうして、ここで生きているということは、その苦しみを何とか乗り越えてきたということです。
人間には、身体的にも精神的にも、自己治癒力が備わっているのです。