危機的な状況では脳内モルヒネが分泌される

大往生したけりゃ医療とかかわるな 中村仁一

日本人は、よほど「死」という言葉が嫌いらしい。
私などは夏場になると、「ああ、これで半年墓場に近づいたなあ」と感慨を洩らします。
すると「よくそういうことを平気で口走れるな、無神経にもほどがある」という顔をされます。

死に際だけでなく、人間が極限状態に陥ったとき、脳内にモルヒネ物質が分泌されるのは、どうやら間違いない事実のようです。
エンドルフィン(モルヒネ様物質)は、大量失血や敗血症によるショックによって分泌されることが分かってきました。
危機的な状況でエンドルフィンが増加することは、哺乳動物や、おそらくはそれ以外の動物にも備わった生理的なメカニズムで、それは恐怖と苦痛という精神的及び肉体的な危険から守るための仕組みだと思われます。

自然死の実体は餓死です。
一般に、飢餓、脱水といえば、非常に悲惨に響きます。
空腹なのに食べ物がない、のどが渇いているのに飲み水がない。
しかし、同じ飢餓、脱水といっても、死に際のそれは違うのです。
命の火が消えかかっていますから、腹もへらない、のども渇かないのです。