単にして純なもの

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

厚く塗られたニスは空気を遮断します。
杉は、その窒息状態で「苦しい」という叫び声を上げていたのです。
その日から、岳南さんは従来のやり方をすべてやめてしまいました。
試行錯誤のすえ、ニス塗は必要最低限、木が乾燥しない程度に抑え、しっとりとした感触を大事にする手法を完成させたのです。
当時、屋久杉から艶が出るという売り込みが盛んでしたが、だんだん艶のない岳南さんの作品が評価されるようになって、今では逆転してしまったようです。

僕は尋ねてみました。
「岳南さん、どうしたら岳南さんみたいに潔く生きられるんでしょうね」
すごいと思ったら真似をする。
いいと思ったら聞く、これが僕の普通です。
すると岳南さんは「俺の人生の秘訣は、単にして純なんや」と、これまたさらりと答えます。
人生のいろいろな問題も、複雑に考えないで、素直に純粋に考える。
そうすると道が見えてくる。
まっ、宇宙や自然の声に耳を傾けていれば、だんだん人間の小賢しいもろもろは小さくなって、単にして純にならざるを得ないんやけどね。

じっと杉の声を聞き、無念無想になって自然界と交流する毎日・・・。
そこから見えてくるものは、確かに人間の様々な思いを裏切って、単にして純なものかもしれません。