卒業式に彼女が来た

ココロの架け橋 中野敏治

彼女が来たとき、式歌の最中だったのですが、彼女は体育館の中央まで走ってきました。
予行演習もしていない彼女ですから、自分の席がどこにあるかも知りません。
気がつくと、私は自分の席を探している彼女に走り寄っていました。
そして彼女を誘導しました。
クラスの生徒も彼女の姿に気がつきました。
クラス全員がそろっての式になったことの嬉しさに感激し、みんなの歌声が涙声になっていました。

修学旅行も欠席した彼女に、クラス全員で京都から手紙を書いたこと、彼女の誕生日には彼女がいなくても、みんなが彼女のために歌を歌ったこと。
しかも、彼女の家の方を向いて歌おうという声まで出てきたこと、毎日彼女の家を訪ねてくれた生徒。
彼女を席に誘導する私の頭の中で、たくさんのことが思い出されました。
自分の席の所まで来た彼女に、私は自分の胸から胸花をはずし、彼女の胸にその花をつけました。
式場の時間が止まったようでした。
私も生徒も、涙で声を出すこともできませんでした。