勝利者

キューブラー・ロス(精神科医)の著書から

9歳のジェフィーは、この6年間を白血病患者として生きてきました。ジェフィーの命はあと数週間であることが、私には分かりました。

ジェフィーは見事な口ぶりでこう言いました。
「大人って、何を考えているのかわからないよ。どうして僕みたいな病気の重い子を治そうとするの?」
彼が言いたかったのは、「もう治療は結構です」ということです。

両親はジェフィーのその言葉を聞き、彼を尊重し、納得しました。
ジェフィーが家に帰りたいということは、本人も自分の命は幾ばくも無いことを悟っているということです。

ジェフィーにはどうしても死ぬまでにやっておきたいことがありました。一生に一度でいいから、一人で自転車に乗り、近所を走り回りたいという夢があったのです。

父親に自転車を倉庫から出してもらうと、涙をためて「パパ、補助輪を付けて」と頼みました。
それから私に向かって「ロス先生、ママを抑えていて!」と言って自転車をこぎ出しました。

もし私が母親を抑えなかったら、彼女はジェフィーを病気の赤ん坊みたいに抱いて自転車に乗せてやり、彼を支えながら自分も一緒について回ったことでしょう。

しばらくして満面の笑顔でジェフィーは自転車に乗って戻ってきました。
ジェフィーにとって、人生最大の勝利を勝ち取ったのです。

それから、数日ののち彼は息を引き取りました。
短い人生を生き抜いた、勝利者の顔を残して・・。