全人的苦痛に苛まれる

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

子どもたちの人格を尊重し、すべての説明をした上で、私は妻と「近い将来の死」を前提にした話しをした。
私があと何年生きることができるか。
それは誰にも分からない。
ただ。あと1~2年以内にも「そのとき」がやってくる可能性は否定できない。
大黒柱を失った妻や子どもたちが、路頭に迷うことなく過ごすにはどうしたらよいのか。
それは、私にとってある意味では自分の体調よりも切実な問題だった。
いろいろとシミュレーションした結果、もし私がいなくなっても何とか子どもが独立するまでの生活費は確保されるという結論に達した。

ガンに罹患すると、人は痛みなどによる身体的苦痛だけでなく、全人的苦痛に苛まれるという。
全人的苦痛とは、大きく4つのカテゴリーに分かれている。
身体的苦痛の他に、抑うつなどの精神的苦痛、金銭的問題や家族関係の問題などの社会的苦痛、最後になぜ自分が?こんな状況で生きている意味があるのか?など、生きる意味や価値を見失うことによる苦痛だ。

私の場合、治療費から私の死後の生活費まで、ある程度イメージできたことによって、体も気持ちを驚くほど楽になり、治療に対する意欲がわいてきた。