兄がくれた腕時計 3

そして面接の当日、約束の時間より1時間も早くついてしまったので、近くのカフェで時間をつぶしていた。
しばらく読書に没頭して、ぼんやりカフェの壁掛け時計に目をやると、さっと血の気が引いた。
面接の時間は3時。時計は3時5分をさしていた。
「そんな!」思わず声を上げた。
ちゃんとアラームを設定していたはず。
だが、時計に目を落とした私は言葉を失った。
画面に見たこともない横線が何本も入っていた。完全に停止していたのだ。
まさかこのタイミングで壊れるなんて・・・。
すぐにその会社に電話をしてなんとか時間をずらしてもらったが、面接では遅刻のことをねちねちと言われただけで、内定の連絡が来ることはなかった。

私はものすごく落ち込んだ。
そのやり場のない怒りは兄に向けるしかなかった。
「もう、なんでこんな大事な時に止まるのよ!」
兄のせいじゃないって、分かっているんだけど・・・。
母はのんびりと言う。
「きっと、お兄ちゃんがこんな会社やめておけって言っているのよ」
結局、私は就職先を決められないまま4月を迎え、兄の腕時計は壊れたまま机の奥にしまわれた。