兄がくれた腕時計 2

私は頭が真っ白になって、先生が誰の話しをしているのか分からなかった。
兄がバイクの事故で死ぬなんて。
「せかせかしなさんな・・」あれほど言ってたくせに。

その日以来、私は兄がくれた時計をつけて出かけるようになった。
それが唯一といっていい形見だったからだ。
やがて高校を卒業した私は、映画を扱う仕事に就きたくて、映像関係の専門学校に進み、学校を卒業する年になると、映像関係の会社の採用試験をいくつも受けた。
だけど、なかなかいい返事はもらえず、唯一二次面接の通知をくれた会社は”とりあえず受けた”感じのところだった。
映像関係の会社でも、あまり行きたかった会社でもない。
でも、ここを逃したら1年間就職浪人することになる。
ものすごく悩んだ結果、その会社の二次面接を受ける申し出をすると、もうこの時点で内定が決まったものと考えて良いとのことで、後は簡単なディスカッションをする程度でいいと担当の人に言われた。
気の進まない職場でもきっとそのうち慣れるさ、そんな風に考えることにした。