優勝

ココロの架け橋 中野敏治

彼は翌日からの練習には参加できませんでした。
彼はそれからグランドの脇に座り、大きな声でクラスメートに声援を送っていました。
体育祭当日、1番に学校に来たのは彼でした。
彼はまだ足が治っておらず、すべての競技に参加できませんでした。
それでも、誰よりも早く学校へ来て、クラスの優勝を願い、応援グッズを用意したのです。

午前中の競技が終えた時点で、彼のクラスは2位でした。
すると昼休みになると彼のクラスメートは、けがをした彼を中心にグランド脇に集まりました。
そして、クラスのメンバー全員が肩を組み、円陣をつくってお互いに気合を入れるように大きな声を出し合いました。
「いくぞー!」「おー!」「優勝するぞ!」「おー!」と。
この円陣の中心にいたのは片足で立っていた彼でした。

午後の部のすべての種目が終え閉会式です。
記録係りの生徒が結果を発表します。
「第3位 〇組」「第2位 〇組」そして、「第1位・・・」少しの沈黙の後、「〇組!」と発表されると、彼のクラスから大きな歓声があがりました。
彼のクラスが優勝したのです。
そして表彰式が始まりました。
表彰状を渡す時、クラスの列の一番後ろからクラスメートにおんぶされて出てきたのは、彼でした。
「先生、彼に賞状を渡して」とクラスメートが言うのです。
そっとクラスメートの背中から手を出した彼に、しっかりと優勝の賞状を渡しました。
彼の目から涙が流れているのが分かりました。