僕の生まれた日 5

画面が反転し、「そして現在・・・・」というテロップが出た。
どこかの家の廊下をカメラ が進む。
カメラはいつの間にか主観的な視点に変わっていて、もう俺の格好をしたテルも、谷口ドラえもんもいない。

そしてそこは、間違うはずもない実家の廊下だった。
ぎしぎしと床をきしませながらカメラは進み、突き当りのドアの前で止まる。
そこはもちろん俺の部屋だった場所だ。
ドアがゆっくり開いて、懐かしい俺の部屋が映る。
タバコの匂いまでしてきそうな気がした。

オカンが立っていた。
少しやせて小さくなったように感じたが、それは間違いなくオカンだった。
ぎこちない笑みを浮かべながらカメラを見ていた。
「ユウト、元気にやってる?」
そして今ここにいる俺に向かって話し始める。

「今は岐阜でがんばってるんやて? 目標見つけたね。良かったね。でも中途はんぱで投げ出したらあかんよ。あんたは短気だからね。それと、こんな素敵なお友達がいて。後はお世話になっている仕事の上司も、そういう周りの人たちに対する感謝の気持ちだけは忘れんといてね。バーのお仕事がんばって。いつかお父さんと飲みに行くから。それじゃあ、体に気いつけて。疲れたらいつでも休みに帰っておいで」

俺は画面をじっと見ていた。
「ユウト、30歳のお誕生日おめでとうね」
酒なんて飲めんくせに。
でもオカンはオカンのままだった。

ベッドもカーテンも、あの家を出た日から何も変わっていなかった。
俺はもう大人だと思っていたが、オカンにとっては息子のままだったのだ。
強がって、一人で遠く離れた場所にやってきて、強引に家族の縁を切ろうとして、少しずつ不安を感じていた自分が、ものすごくちっぽけな存在に思えた。
目に涙があふれた。

俺は何も話すことができない。
みんなに笑われるかと思ったが、みんなは画面に拍手を送っていた。
谷口なんか俺より泣いていた。
何人かのスタッフの名前が流れているが、なんて書いてあるのかさっぱり見えない。
顔も上げられなくなった。
もう皆ながどんな顔をしているのか分からない。
でもこれだけは分かる。

俺は幸せ者だ。