伝えられなかった言葉 4

善夫が死んだというニュースを聞いたのは、夏休みも終わるころだった。
海水浴に行って溺れたのだ。
お葬式の日、棺桶の中で眠っているだけのように見えた善夫の顔を見ても、まだ実感がわかなかった。
哲夫は同じバンド仲間として善夫のお母さんに挨拶しようとしたが、何を話せばよいのか分からなかった。
戸惑っている哲夫に声をかけてくれたのは、目を真っ赤に泣きはらした善夫のお母さんの方だった。
「息子とバンドをやってくれてた子やね?」
「はい」哲夫は下を向いたまま頷いた。
「あの子ね、バンドやっている時ほんまに楽しそうやったんよ」
「はい」
「短い人生になってしまったけれど、ちゃんと幸せな思いもたくさんしとったと思うよ」
「はい」
「ほんまに、ほんまに、ありがとうね」
「はい」哲夫は泣いてはいけないと思った。
唇をぎゅっと噛んだ。
仲直りもできないくせに、こんな所で泣いていたら、自分は本当に勝手な奴だと思ったから。
そういう最低な奴だけにはなりたくなかった。
もう善夫に謝る機会は絶対に来ないし、うまい棒をおごることもできない。
「こちらこそ、ありがとうございました」そう伝えたかった! けど、もう伝わらない。
でもやっぱり、最後は涙をこぼしてしまった。

「お前のオリジナル、絶対いけると思うねん」
あの日、善夫が言ったその言葉を胸に、哲夫は今も音楽を続けている。

誕生日というのは毎年やってくる、それが当たり前と思っているけれど、それは保証されているわけではない。
今日という日を迎えられること、今誰かと一緒にいられること、それだけですごい幸運だと思う。
せめて今日だけは、精一杯生きていこうと思うのだった。