代替治療とは

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

人間が困ったとき、困難に直面したとき、何かに救いを求めるのは自然なことである。
それまでは信仰に縁もゆかりもないと思われた人が、急に宗教に目覚めることもあるし、食事や生活習慣を劇的に変化させ、特定の食品を大量に摂取したりする人もなかにはいる。

ガンという病気において、今も多いのが代替医療への傾倒だ。
代替医療とは、通常のガン治療とは異なるアプローチの総称であり、たとえば瞑想や祈り、食事療法やワクチン療法など、その内容は多岐にわたる。
ただし、それらは医学的に治療効果が証明されていないものが多く、保険適用外で高額な費用がかかることが多いため、代替医療を望む患者さんや家族と、それを歓迎しない医療者との間で摩擦が起きることも珍しくない。

代表的な代替医療の例として、高濃度のビタミンCを点滴するというものや、樹状細胞ワクチンを注射するといったものがあり、私も何度かその治療法に心酔している患者さんと出会ったことがある。
ある高齢女性の患者さんの家族は、すでに寝たきりで意識もないにもかかわらず、樹状細胞ワクチンを注射すると言ってきかなかった。
女性の余命はどれだけ前向きに見積もっても「あと数日」と予測せざるを得ない状況であり、少なくとも高額の樹状細胞ワクチンを打つのは、費用的にも患者さんの身体にもリスクに見合った利益は得られないと判断した私は、樹状細胞ワクチンを接種する医師に直接電話をかけた。
事情を説明し、「先生の方からワクチン注射の中止を説明してもらえませんか?」とお話しした。
相手も簡単には折れないだろうと身構えていたが、この医師は意外にも「意識もない? それででは意味がないばかりか危険です。投与をやめましょう」と、こちらの意見を認めてくれ、ワクチン注射を止めてくれた。