仕事も全部やめて

パニック障害、僕はこうして脱出した 円広志

芸能界には僕のような持病を持つ人が少なくない。
自殺した落語家の桂枝雀師匠も、お笑いタレントのポール牧師匠もうつを患っていたといわれる。
真面目で几帳面な人が多い。

友人のAもその一人である。
僕を気づかって電話してきたAは、電話口でまくし立てた。
「仕事全部やめたんやって。えらいことになったな。とにかく、これからそっちに行くから話しを聞かせて」
友達思いのAが心配している様子が手に取るように分かる。
「いや、気持ちはありがたいけど、病気がひどいから僕から行きますから」
ひとまず押しとどめて、Aの自宅に行くと、夫人が事情を聞いて泣き出した。
僕と同じ病気にかかってAにも辛い時期があったのである。
しかも、前途を悲観して発作的に首を吊ろうとしたこともあったらしい。
だが、仕事柄、絶対に口に出して自分の病気のことは言えない。
そんな夫を身近に見ていただけに、夫人もつらくなったのである。
しかし、Aは耐え抜いた。
「死のうと思ったら、その前に電話してや。一晩寝たら、思いとどまるかもしれへんから。絶対やで!」
帰りしな、Aは言った。
彼の友情に涙が出た。