仕事は死ぬまでの暇つぶし

うまいこと老いる生き方

92歳精神科医 老人になると役割だけじゃなくて、自分を縛ってきた「欲」からも、どんどん解放されるよ。面白いもので、ええ塩梅に気力や体力が落ちてくるから、あれもしたい、これもしたいって気持ちがだんだん少なくなっていくんやな。仕事でも私生活でも、脇役、黒子でけっこう、そっちの方が楽やし、ってな感じになる。

54歳精神科医 確かに50歳を過ぎたあたりから、物欲も穏やかに減ってきますし、仕事や趣味で自己実現しなきゃとか、人生を充実させなきゃ、といった感覚もどんどん薄まっていきますね。

92歳 自己実現ねえ。そういうことで悩んでいる若い人が多いみたいやね。私ら戦争を体験してきた世代からすると、そもそも何かを通じて自己実現するっていう感覚がないから、気持ちが分からへんけどね。仕事は生活していくため、食べていくためにするもんやって思って、私自身はやってきたから。

54歳 きっと、私の世代くらいから仕事はお金を稼ぐためだけじゃなく、自分を活かすため、輝かせるためにするもんだって刷り込みがされてきたんですよ。今の若い人たちは、学生時代から将来のキャリアプランをイメージさせられていますから、社会に出て、仕事が自分の理想と違っていると、悩んだり不安になったりしてしまうし、他者から自分の欲しい評価をもらえないと、うつ的になってしまうんです。