人生50年から80年時代に

いのちの言葉 宗教学者 山折哲雄

70歳を過ぎたころから、時々、天の声が聞こえるようになりました。
散歩などをしておりますと、突然天の方から「お前は今、死ねるか」といった声が聞こえてくるんです。
自分の心のうちが、天から聞こえてくる、ということだろうと思うのですが、その時「今なら死ねる」と答えることがあります。
しかし、ほとんどの場合は「まだ駄目だ」という声が、心の奥底から突き上げてきます。

20~30年前までは、人生50年と漠然と考えていたような気がします。
よころが、あっという間に人生80年になってしまいました。
この落差というのは非常に大きいですね。
人生50年というのは、4~500年続いているわけです。
それを私なりに考えますと、働きづめに働いて、気がついたらもう目の前に死が迫っていた、こういう人生だと思います。
ところが、人生80年になった今は、定年の先にまだ20~30年の長い人生が横たわっています。
人生80年というのは、病気と老いと死がゆっくりやってくる時代になったということです。
そうすると我々は、病気・老い・死をじっくりと見つめていかなければなりません。
そして、そのような人生の後半を「どう生きるのか」が最大の問題になってきたのだと思います。