人の心を動かす

いい言葉がいい人生をつくる 斎藤茂太

アサヒビールがどん底から這い上がった直接のきっかけは、新製品を発売する前に、それまでの市場在庫を全部引き揚げたことだったそうだ。
市場在庫の引き揚げは相当な負担になる。
メーカーはその負担を惜しみ、大抵の場合、市場在庫は自然入れ替えという形をとるのが普通だ。
徐々に売れなくなっていくのを待ち、新しい注文には新製品を配置していく方法だ。

だが、アサヒビールの社長は「ものすごくおいしいビールができたのに、古いビールを市場に残しておくのは消費者の申し訳ない」と考えた。
ビールはアルコールなので、回収在庫の処分には特殊な処理をしなければならず、予想以上の費用がかかった。
だが、店舗から一挙に古いビールを引き揚げたため、小売店は、新製品はよほどいいものに違いないという印象を持ち、関心を高めた。この小売店の心証、やる気が、新生スーパードライの強い追い風になったそうだ。

人生には、心を動かすためにモノや状況を動かせば、ずっとよい結果が見えてくることがあるのだ。