乞食生活

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

さて、北海道に渡った宮田さん、さっそく乞食を始めました。
3月中旬に北海道に行った宮田さんは、まず、その寒さにやられました。
野宿をしていては凍え死んでしまいますから、夜中は街中を歩き回り、昼間、商店街のシャッターが開いている時間に、暖かい商店街の片隅で眠るという生活が続きました。
乞食になってみて初めて、それまで食べさせてくれていた親のありがたみを切実に感じたといいます。
同時に、これまで当たり前のようにあった屋根のある家、冷蔵庫、掃除機、そんなものまで与えられていたことへのありがたみを実感したのです。
以前、彼の父親が言った「乞食になれば、感謝の気持ちを知ることができる」というのは、まさにその通りでした。

どうやって食べ物を手に入れるか? 迷うことはありません。
答えは1つ、拾って食べるのです。
生きていくためにはプライドなんて捨てなければいけないことを、すぐ宮田さんは悟ります。
そのうち、乞食の師匠みたいな人が現れて、「ここに行けばもっとうまいものが食える」などと教えてもらえるようになりました。
また、レストランの厨房の一番若い店員と顔見知りになって、作り置きして余ったものを分けてもらったりする術も覚えました。

住めば都といいますが、生きることに不安を感じなくなると「乞食は1回やったらやめられなくなる」ものらしいのです。
宮田さんが乞食ライフで出会った人の中には、大きな会社の社長をやっていた人、一流大学を出ているのに、家も仕事も放棄して乞食をやっている人もいたそうです。
知り合いもいない、家もない、お金もない、そういう中で生きること、つまり誰にも何にも縛られることなく過ごす毎日は、ストレスと無縁のものです。
何をしても自由、同時に、生きるも死ぬのも責任は自分にある。
生きる術さえ身につければ、この解放感はたまらない快感になるのかもしれません。