不安が不安を呼ぶ

パニック障害、僕はこうして脱出した 円広志

圧迫感のあるものは一切受け付けなくなった。
ネクタイもダメ、冬にハイネックを着ることもできなくなった。
床屋に出かけても、椅子に腰かけているのがそこへ縛り付けられているような気がするので、椅子をわざわざ外へ出してもらったり、ベランダのある美容室に出かけてベランダでセットしてもらった。

怖くなるとトイレに駆け込んだ。
だが、そのトイレもドアを開けておかないと怖くて用を足せなくなっていた。

マンションの玄関も施錠すると、誰かに助けてもらうとき障害になるからと、開けたままにしておいた。
不安の襲われた場所や環境に身を置くと、また同じ発作にかられるのではないかと不安になる。
不安が不安を呼ぶのである。
まったく処置なしだ。

私は生来の医者嫌い。
病院で診察を受けるのもいやだった。
仕事は失いたくない。
だから、不調を誰かに訴えることもなく、医者にもかからず、一人で我慢し続けた。
その代わり、夕方になるとすぐにアルコールに走った。
不思議なことに、酒を飲むとそれまで感じていた不安が解消した。
しかし、充実した仕事の後の一杯は旨いが、不安から逃れるためだけの酒が旨いはずがない。
それどころか、俺はこんな弱い人間やったんか、そう思うとひどく落ち込んだ。