下座に生きる 9

「お前、昨夜はどこに行っていたんだ。心配したぞ・・」
家の人がそう言うのが聞こえてくる。
「ざまあ見ろ。帰りやがった。よかった、よかった・・」
俺はそう思って神社に帰ってきた。
「でもなあ、でもなあ・・・」

そこまで言うと卯一は涙声になった。
「どうした、泣いたりして」
「俺はなあ、また一人ぽっちになってしまったんだ・・!」
卯一はわあわあ泣いた。
あの枯れきった体のどこから出るかと思うほど、大きな声で泣きじゃくった。

「そうだったのか。そんなことがあったのか。ごめんよ。思い出させちまって」
卯一は泣きやむと、意を決したように三上さんを見据えていった。
「おっさん、笑っちゃいかんぞ」
「何じゃ、笑いはせんぞ。言っちまいな」
「あのなあ、一度でいいから、お父っつあんと呼んでいいかい・・」
三上さんは思わず卯一の顔を見た。この機会を逃すまいと真剣そのものだ。
「ああ、いいよ。わしでよかったら返事するぞ・・」
「じゃあ、言うぞ!」
「いちいち断るな!」
しかし、卯一はお父っつあんと言いかけて、激しく咳き込んだ。
身をよじって苦しんで血痰を吐いた。
三上さんは背中をさすって、介抱しながら
「咳がひどいからやめておけ。興奮しちゃ、身体によくないよ・・」
と言うのだが、すると続けざまに咳をして、死ぬほどに苦しがる。
「なあ卯一。今日はやめておけ。体に悪いよ・・」
三上さんは泣いた。
それほどまでして、こいつは「お父っつあん」と言いたいのか。

悲しい星の下に生まれてきたんだなあ、と思うと後から後から涙が頬を伝っていった。