下座に生きる 8

「何だ、まだ他にもいるのか。誰だい、そのもう一人って?」
そう問われて、卯一は何かを思い出すように遠くを見た。

「昔、俺が神社の床下で寝起きしていたことだ。朝起きて見ると、境内の大きな栴檀の木の下で泣いている9つくらいの女の子がいたんだ。おい、どうしたって近寄っていってもその子は逃げないんだ。ボロボロの着物を着た俺の姿を見たら、大抵の子は恐ろしがって逃げるのにな・・」
「昨晩、おっかさんに叱られて家を放り出されたの・・」女の子は言った。
「朝ご飯は食べたのか」と聞くと、昨夜も食べてないという。
「ちぇっ、おれよりしけてやがんの!」と言いながら、縁の下に潜り込んで取っておいたパンを差し出した。
「これでも食いな!」
すると、その子は目をまん丸くして「えっ、兄ちゃんくれんの?」と言いやがった。
俺のことを兄ちゃんって言ったんだ。
「あの馬鹿たれめが・・」
「やるから早く食いな!」って言うと、むさぼるように食ったんだ。
それで、俺は自分の分の半分も差し出して
「これもやるから食いな・・」って言うと、それ食ったら兄ちゃんの分がなくなるって言うんだ。
あの馬鹿たれが。「いいから食え!」って言うと、おいしそうに食ったんだ。
「食べ終わったら帰れよ・・」と言ったが、その子は帰らんと言う。
「帰らないと俺みたいになっちゃうぞ!」と言っても
「おっかさん、大嫌い。もう家には帰らん!」と言う。
脅したら帰るだろうと思って、「帰らんなら殴るぞ!」と拳を振り上げると、家の方に逃げたんだ。