下座に生きる 5

「せっかく来たんだ。足でもさすろうか・・」
と三上さんが立ち上がると、少年は「いらんことをするな!」と気色ばんだ。
その病室には椅子がなかったので、三上さんはコンクリートの床にじかに座っていたのです。
「まあ、そういうな。好きなようにさせてもらうぞ・・」
足元に回り、毛布をめくると腐敗したような甘酸っぱい臭いがムッと鼻を突きました。
枯れ木のような細い足で、骨の形が見えるようです。
関節は膨れ上がり、肌は鮫肌のようにカサカサで、くぼんだ所には黒く垢がたまっています。

さすがの三上さんもたじろきました。
この足をさするのかと思うと躊躇したのです。
そんな気持ちを乗り越えてさすっていると、少年が語りかけてきました。
「おっさんの手は柔らかいなあ」
「何いっとんのじゃ。男の手が柔らかいはずがあるかい」
「うんにゃ、柔らかいぞ。おふくろの手のようだ」
恐らく人の肌に触れたこともないのだろう。
生まれて初めて人に触れられて、少年の心は溶けていきました。
「うれしい、うれしい。こんなにうれしいことはない・・・」
人を身近に感じてうれしくてたまらなかったのです。