下座に生きる 2

「もしも伝染したらいけませんから。開放性の伝染病ですから・・・」院長は言います。
そう言われて三上さんは決心します。
「伝染すると決まったわけではありませんから、マスクや白い上着は着けないことにします。その少年の気持ちを思うと・・・このままの方がいいと思いますので・・」

院長に案内されて行ったところは、病院の一番奥にある隔離病棟で、5つある個室のうち彼の部屋だけが使われていました。
院長に続いて中に入ると、6畳ほどの広さの部屋に白木のベッドが1つ、コンクリートむき出しの寒々とした床の上に新聞紙を敷いて、尿器、便器が置いてあり、入り口には消毒液を満たした洗面器が置かれています。

げっそり痩せて頬骨が尖り、無精ひげを生やした少年の顔は黄色く淀んでおり、目の周りが黒ずんでいる。黄疸を併発しているようだ。
「気分はどうかね?」
院長が話しかけたが、少年はそっぽを向いたまま返事をしない。
「少しは食べてるかい?」
それでも少年は返事をしない。うるさそうにしている。
「眠れるかね?」
顔をそむけたまま答えようとしない少年の向こう側に回って、三上さんが顔を覗いてみると、憎々し気な様子だ。
少年が答えないのを見て院長は構わず言った。
「こちらにいらっしゃるのは三上先生という立派な方だ。私らは向こうでお話を伺って非常に感動した。お前にも聞かせてやりたいと思い、おまえ1人のためには申し訳ないと思ったけれど、無理にお願いして来てもらった。体がきついかもしれないが、辛抱して聞きなさい。分かったか」
「・・・・・・」
少年は黙ったままだ。
「三上先生、どうぞ」と言われ、三上さんは少年の仲間の言葉で話しかけた