下座に生きる 14

若い医師は信じられないものを見たかのように、深く息を吸い込みました。
三上さんも、つられて大きく息を吸い込みました。
「毛布の下で合掌していたんです。あいつが、ですよ! 信じられない。合掌していたんです・・」
若い医師は、涙声に変わっていきました。
院長もうつむいています。
三上さんも、くしゃくしゃ顔になってしまいました。
「卯一、でかしたぞ。よくやった。合掌して死んでいったなんて・・・」
あたかも、そこにいる卯一に語りかけているようです。
「なっ、わしも約束は忘れんぞ。命のある限り、講演先でおまえのことを語り、死ぬ前日まで親御さんを大事にしろと、言っていたと伝えてまわるぞ・・!」

そこまで言うと、三上さんは泣き崩れました。
肩を震わせて泣く三上さんの傍らで、院長も若い医師も泣き崩れました。
「卯一よ、聞いているかあ・・・。なあ、お前の親のことを恨むなよ。少なくとも母さんは、自分の命と引き換えにお前を産んでくれたんだ。それを思うたら、母さんには感謝しても感謝しきれんがな・・・」

三上さんはしゃくりあげながら、虚空に向かって話しています。
「それになあ、お前に辛く当たった大人たちのことも許してやってくれ。わしも、詫びるさかいなあ・・・。みんな弱いんだ。同情こそすれ、責めたらあかんぞお・・・」
三上さんの涙声に、院長の泣き声が大きくなっていきました。

「責めたらあかん!」
けれど誰も責めることはできないのです。

責めるどころか、お詫びをしなければいけないのです。
諍いあい、いがみ合う世の中を作ってしまっていることに対して、こちらから先に詫びなければいけないのです。
そうするとき、和みあい、睦み合う世の中が生まれるのです。