下座に生きる 13

三上さんが院長室に帰ると、そこには院長先生がいました。
昨晩は家に帰らず、院長室のソファに寝たようです。
「あなたが、あの部屋で看病していらっしゃると思うと、帰ることができなかったのです。夜中に二度ほど様子を覗きに行きましたが、夜通し足をさすっていらっしゃった。頭が下がります」
「いえいえ・・」
と言っているうちに、院長室のドアがあわただしくノックされました。
「どうぞ」と言う院長の声に息せききって入って来たのは、若い医師でした。
「ちょっと報告が・・」と言う声に、院長は座を立って、事務机の方で若い医師の報告を聞きました。
「三上先生、津田卯一が経った今、息を引き取りました!」
「えっ!」
三上さんは茫然としました。
「でも昨日は10日は持つと仰っていたのに・・・」

当直の若い医師が真面目な顔で切り出しました。
「不思議なことがあったのです。あいつはみんなの嫌われ者で、何か気に入らないことがあると、殺せ!殺せ!とわめきたてていました。なのに、一晩でまるで変ってしまいました」
「というと・・・」
三上さんは聞き返しました。
今朝、私が診察に入っていくと、いつになくニコッと笑うのです。
おっ、今朝は機嫌がよさそうだなと言い、消毒液を入れ替えて、いざ診察にかかろうとすると、妙に静かです。
「卯一!卯一!」と呼んでみましたが、反応はありません。死んでいたのです。
私が入って来たと同じように、うっすらと微笑みさえ浮かべていました。
私は我に返って『お前ほど、可哀そうなものはいないよ・・』と言いつつ、はだけていた毛布を直そうとしたのです。ところが・・・」